1.まず、家族葬とは何か?
バブル経済に日本が沸いていた頃、葬祭業界は2兆円産業とも呼ばれていました。葬儀は生活余剰金で営まれるため、その時代の経済状況の影響を受けつつ姿を変えてきたのです。かつて限られた近親者だけで営まれる葬儀は秘密の葬儀=「密葬」と呼ばれ、数は少ないながらも葬送文化の一部として存在していました。「家族葬」という言葉が生まれたのはバブル崩壊後の1993年頃と言われています。この言葉はバブル崩壊による経済の収縮、いわゆる「失われた20年」の間に、安価で簡素な新しい形の葬儀として浸透していきました。
2.葬送文化における家族葬の位置づけと特徴
家族葬の歴史は浅く、これといった定義や決まり事が存在する訳ではありません。密葬に置き換えられるものとして考えると、「近親者以外には閉じられた葬儀」といったところでしょうか。近親者の定義については「4.家族葬のデメリット」でお話しするとして、このように定義すると、規模や価格帯の観点から家族葬は自治会や友人、遠縁の親戚などに広く声をかけ執り行われる「一般葬」や、宗教者を呼ばず火葬のみを行う「直葬(ちょくそう)」「火葬式」との中間地点に位置づけることが出来るでしょう。
家族葬最大の特徴は「喪家が参列者を選ぶことができる」点にあります。直葬では故人に対しあまりに忍びないが、かといって一般葬を出すのは経済的・精神的な負担から難しい(難しそう)という喪家にとって、見知った少数の会葬者で執り行うことが出来る点が家族葬の普及する大きな要因の一つと言えます。
3.家族葬のメリットとは?
最も大きなメリットは「故人とゆっくりお別れできる」ことでしょう。従来の一般葬では、喪家はどうしても一般会葬者の対応に追われ気づけば葬儀が終わっていたということも当たり前にありました。参列者を絞って執り行われる家族葬では、少なくとも葬儀を終えるまでの間この心配はありません。一般葬の場合に参列するか悩ましい間柄の会葬者側としても、自分がその葬儀に対して参列すべきかどうかの基準として考える(=家族葬ですのでご会葬はご遠慮いただいております、というお知らせがあるかどうかで参列するか判断できる)ことが出来る点もメリットと言えるでしょう。
4.家族葬のデメリット、注意点
ここでひとつポイントとなるのが「近親者」というキーワードです。これを読んでいるあなたが「あなたにとっての近親者とは?」と問われた時、誰のことを思い浮かべるでしょうか。親兄弟の顔を思い浮かべる人がいれば、隣近所のお友達が浮かぶ人、SNS上で繋がっている友人を思う人など、世代や境遇によってその答えは千差万別です。
では、次に「あなたが亡くなった時に喪主をするor死亡届の届出人になってくれる人」を思い浮かべてみてください。その人は、「あなたにとっての近親者」をきちんと把握してくれているでしょうか。反対に「自分が喪主をするor死亡届の届出人になる人」のそれをきちんと把握しているでしょうか。
家族葬の最大のデメリットはこの部分にあります。「葬儀は近親者のみの家族葬で」と一口に言っても、故人が人生で積み上げてきた縁を見落としている場合があります。それ以外にも、喪家が思っている以上にお別れを望んでいた方が葬儀に呼ばれず、後でトラブルになるケースはよく知られているところです。
トラブルの一例として、お香典の問題があります。一般葬が当たり前だった頃、故人がお付き合いのある方々お香典を出してきていることは多々あります。にも拘わらず家族葬にして一般のお香典をお断りすると、喪家としては金銭的な負担が、今まで故人からお香典を頂いていた側にはお返しが出来ないことによる精神的な消化不良が発生します。
これらはぱっと見目に見えないため傍目からは分かりにくいですが、喪家・故人・縁者すべてにとって軽視できない問題だと言えるでしょう。
5.家族葬にすれば葬儀代金は安く済む?
そもそも葬儀代金は大きく分けて祭壇や生花などの「葬儀代」、お返し物にかかる「返礼品代」、親族などに振る舞う「料理代」の3つに分けることが出来ます。家族葬にすると会葬者が減る事で返礼品や料理の数が減るほか、お別れ花用の祭壇生花も少なくて構わないため単純な金額の比較で言えば「一般葬より安くなる」と言えます。
ここで注意しなくてはならないのは、前項で説明したお香典の問題です。一般葬が当たり前だった頃は、お香典だけで葬儀代金が賄えていました。会葬者の高齢化などの問題もあるため現在ではそこまでは見込めませんが、それでも葬儀の場では唯一の収入源です。前項でも触れましたが、家族葬におけるお香典の取り扱いについては一考の余地があるのではないでしょうか。
6.こういった方が家族葬に向いている
遺族にとって故人を然るべき形で火葬・埋葬することは法で定められた「義務」ですが、故人が縁を結んだ人達には最後のお別れをする「権利」があります。心から故人を偲び供養をしたいと思う人の権利を侵害してしまうことが無いのであれば、家族葬は最適な葬儀の形と言えるでしょう。少し難しいようにも思えますが、生前から自分の葬儀に呼んで欲しい人とその連絡先をリストアップし、喪主になる人にお願いしておけばほとんどの場合で問題はないでしょう。
コロナ禍と言えど葬儀は一生で一度きり、最近ではオンライン中継などで最後のお別れをする方法も生まれつつあります。判断に迷ってしまったら、葬儀社の担当者に相談してみると良いでしょう。